秋の女神・竜田姫って?

こんにちは。オズファームです。
前回ブログで紅葉の話をしたついでに、秋の女神

「竜田姫(たつたひめ)」

についても触れておきたいと思います。


以前どこでだったか忘れてしまったのですが、竜田姫が着物の袖で山際をさーっとなでると木々の色が変わっていく(赤く色づいていく)という話を聞いたか読んだような気がして、そのときすっごく幻想的な物語だな~とほれぼれした記憶があります。


でもなぜか、ネットで調べてもどこにもその伝承は見当たりません(´;ω;`)ウゥゥ
勘違いだったのか、まさか自分で作り出した妄想だったのでしょうか…。

でも竜田姫が袖を振って秋を呼ぶという少し似た内容の話は見つかりました。
さらに、竜田姫自体が、文献に伝説のような形で語られているものは調べた限り見当たらなかったので、正直断片的な情報しか手元にありません”((+_+))
今回はみつけたわずかな情報とほかのくわしい人の解説を頼りに竜田姫についてみていきます!

竜田姫とは

竜田姫は風の神様で、袖を振ることで葉をあざやかに紅葉させると言い伝えられています。紅葉の色を紅に染め上げるように、染め物が上手な女神様だったようです。


それがわかる記述が『源氏物語』帚木の有名なシーンにあります。


光源氏をはじめとする貴公子たちが集まって女性の品定めをする(今まで付き合ってきた女性を振り返ってあれこれ女性談義をする)場面で、光源氏の同僚・左馬頭(さまのかみ)が以前付き合いのあった女性について

「あまりに嫉妬深く指に食いつかれるほどだったので別れ、その後彼女は亡くなってしまうのだが後から考えれば染め物は竜田姫もかくやというレベルで、また織物の腕も相当なもので正妻にするには彼女は十分すぎる女性だった」

「秋の訪れに竜田姫を想う~美しい紅葉をもたらす秋の女神Lifestyle / ライフスタイル」より

と語っています。

この場面で元妻(?)が染め物の腕に優れているという文脈で竜田姫が話のたとえに出されています。当時は染め物が得意なことは良い妻の大切な条件だったそうです。

与謝野晶子訳『源氏物語』
家の妻というものは、あれほどの者でなければならないと今でもその女が思い出されます。風流ごとにも、まじめな問題にも話し相手にすることができましたし、また家庭の仕事はどんなことにも通じておりました。染め物の立田(たつた)姫にもなれたし、七夕(たなばた)の織姫にもなれたわけです」
と語った左馬頭は、いかにも亡なき妻が恋しそうであった。
(与謝野晶子訳:紫式部『源氏物語』帚木(青空文庫 図書カード:No.5017))

竜田川と竜田山

さて、竜田姫の「竜田」と聞いて真っ先に思い浮かぶのが紅葉の名所「竜田川」ではないでしょうか。


竜田川を代表する和歌といえば小倉百人一首17番在原業平のこの和歌。


ちはやぶる 神世も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは 

(ちはやぶる神世にも聞かないことよ、龍田川を唐紅色に、水絞染めにするとは)


川一面を染め上げてしまうほどの紅葉の絶景を詠んでいます。
よく知られた話ではありますが、唐揚げとはまた違ったおいしさがやみつきになる「竜田揚げ」は肉の赤と衣の白がまるで紅葉のように見えたことから、紅葉の名所「竜田」から名前をとってつけられたという説もあります。

そんな紅葉の名所として知られる竜田川流域の山々をかつては竜田山と呼んでいました。
竜田姫はその竜田山を秋の女神にたとえたもの。昔は自然のあらゆるものに神様が宿る(アニミズム)と考えられていたので、山自体を神様とみるのもそう不思議なことではなかったはず。

古代中国の陰陽五行思想によると、春夏秋冬と東西南北は、春=東、夏=南、秋=西、冬=北という対応関係にありました。それで都の西に位置する竜田山の竜田姫秋の女神として大和の人々に信じられていたそうです。

竜田姫と日本の秋

そして、竜田姫が旅をするシーンが詠まれた和歌もあります。


『古今和歌集』巻五の秋歌下の二九四番歌
たつた姫(ひめ)たむくる神のあればこそ秋の木(こ)の葉(は)の幣(ぬさ)とちるらめ

(竜田姫、あなたの手向ける神があればこそ、秋の木の葉が幣として散るのでしょう)

この和歌について、

「二句目の「たむくる神」は、旅の無事を祈って手向けをする神、すなわち道祖神のことです。それによって竜田姫自身が旅立つことを表しています」「幣とは、神に祈る時、神前に供えて撒(ま)く物で、当時、小さく切った布(ぬの)(麻や葛など植物繊維の布のこと)や帛(はく、絹の布のこと)、紙などを用いました。散る紅葉を竜田姫の幣に見立てたのです」と解説されています。

「竜田姫の秋|片岡 智子|日文エッセイ36|日本語日本文学科|ノートルダム清心女子大学 (ndsu.ac.jp)」より

OZfarm担当者はあまり詳しくはないのですが、神様があるときはやってきてとどまり、時期が来れば帰っていくというのは、日本土着の神様の初期の姿に似通っているそうです。

想像ですが、お盆の時期にだけご先祖様がこの世に戻ってきて、送り火でまたあの世に帰っていくようなイメージかもしれません。

なんだか古代からの日本人の神様への感じ方に触れられて少し新鮮ですよね。


和歌の世界で秋の象徴として愛され続け、現在は秋の季語になるまでにことばのなかに浸透している竜田姫。

名前とわずかな伝承しか残らないにも関わらず、今日まで愛されているのは、時代を隔てても変わらない紅葉を愛でる日本人の感性が関係しているのでしょうか。

秋の紅葉の絶景から美しい秋の女神をイメージし、反対に 秋の女神が想起させる華やかさから秋がもっときれいに見える、そんな相乗効果があるのかもしれません。

農業とのかかわり

最後に、竜田の風の神は農耕の守護神としてもあがめられていたそうです。


農業と関わる神様や祭事は今日でも多くありますが、古来より日本人の食生活を支えた稲は、風媒花(ふうばいか)という、開花時に花粉を飛ばす種類です。


風にのって花粉を運ぶため、稲は風なしには子孫を残すことができません。


当時の日本人にとって風は作物を実らせるという、生活に直結する存在としても尊ばれ、神様と結び付けられて考えられていたのかもしれませんね。


以上、秋の女神・竜田姫にふれての秋のお話でした。

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